研究紹介 research
研究紹介
当教室はセンター病院に研究室がありそこで細胞培養をはじめとした基礎研究を行っております。
近年iPS細胞やES細胞など幹細胞を用いた再生医療が注目を集めており、本邦でも2014年にヒトiPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞の移植治療が行われています。iPS細胞を用いた細胞移植治療は、今後の発展が期待されており、当教室においてもiPS細胞を含め様々な研究に取り組んでいます。
1)Rho-associated kinase (ROCK)阻害剤に研究
薬剤効果の研究としてRho-associated kinase (ROCK)阻害剤の研究を行っています。ROCKは低分子量GTP結合タンパクの関連酸化酵素であり、平滑筋収縮や細胞形態変化など様々な生理機能に関与しています。
これを阻害するROCK阻害剤は緑内障の治療薬として一般的に使用されていますが、その他に角膜内皮細胞移植において生着率向上の効果があるなど様々効果が報告されています。私達はROCK阻害剤をヒトRPE細胞に暴露させ、その後ROCK阻害剤を除去してもROCK阻害剤が有する細胞死抑制効果が得られる至適時間・濃度を実証しました。この検証により薬剤の副作用を可能な限り減少させ、かつ薬剤の持続効果を示すことが出来ました。(Kitahata et al, Biochem Biophys Rep. 2020)、今後他の使用法についても検討していきたいと考えています。
2)iPS-RPE細胞に対する保存培地の研究
iPS-RPEを用いた再生医療が一般に広く普及するためには細胞の同質性を確保しつつ、可能な限り長期間保存できるような細胞保存液の検討が必須です。そこでiPS-RPEに対して使用されている保存培地に着目し、各種糖を用いてRPE細胞へ与える影響について検討しています。iPS-RPE細胞の培養においては、神戸理化学研究所のプロトコール(Haruta et al. Vis Sci 2004, Hirami et al. Neurosci 2009)が広く使用されています。これまでもSB431542や線維芽細胞成長因子であるbFGFなどの添加因子の濃度の差異による影響が検討されてきましたが、糖に関しては未検討です。そのため糖によるiPS-RPE 細胞への影響(生存率、細胞代謝、低酸素応答、VEGF/PEDFサイトカイン分泌機能、細胞増殖能)について研究を行っています。
糖によるiPS-RPEへの影響が明確になれば、細胞死抑制を目的とした培地や機能を活性化させる培地など用途に応じた細胞培地の提案ができる可能性があると考えています。
3)簡易型細胞移植デバイスの開発
細胞移植手術で使用されるような新しいデバイスの開発に取り組んでいます。これまで行われた手術方法としてはRPE細胞を単層のシート状に培養した上で、網膜の疾患部位を狙って移植していました。その場に定常することを意図しますが、網膜下のわずかの間隙に、脆弱性の高いシートを移植することは大変困難です。
そのため、移植時に物理的強度を発揮するハイドロゲル等をキャリアとする方法を検討しています。具体的には鋳型や温度応答性培養皿を用いてゼラチン付RPE細胞シートを作製し、それに様々なハイドロゲルを使用しこれまでにない新たな移植デバイスの開発を目指します。
それらにより移植時にシート形態を保持したまま移植操作が可能となり、RPE細胞のシート培養から単離するまでをワンステップで実現することが可能となります。